バスの中は花火見物から帰る人々で混み合っていた。
いささかの重量オーバーのせいなのか、それとも単なる整備不良のせいなのか、理由は定かではないが、エンジンは明らかに悲鳴を上げていた。
車内は乗客の声で賑わっていた。ある者は花火の余韻を語り、ある者はこれから訪れる飲食店のメニューを語り、ある者は公共交通機関の相変わらずの不便さを語った。
急な坂道を登り終えた辺りにある比較的大きな停留所に到着すると、少なくない人数が降車のために前方のドアへ歩を進めた。
その中のひとりの老婆が、足元に落ちているハンカチに目を止めた。曲がった腰をさらに曲げてしわだらけの小さな手で拾い上げると、すぐ横の座席で眠りこんでいる浴衣の少女の膝の上にそっと置いた。
老婆はとても優しい目で少女を一瞥すると、満足気にバスを降りて行った。
目を覚ました少女は、そのハンカチをしばらく不思議そうに見つめた後、所有者は別の人物であるということを静かに主張するように、指先でつまんで窓の溝に移動させ、再び健やかな眠りについた。